この記事は『自閉症・発達障害を疑われたとき・疑ったとき』の書評です。

自閉症・発達障害を疑われたとき・疑ったとき

何を期待してこの本を読んだのか?

まだ幼い息子が一般的でない育ち方をしており、どうすれば彼の人生が良いものになるのか知りたくて手にとりました。息子には次のような特徴があります。

  • 2才を超えても一語も発しない (「パパ」「ママ」とすら言わない)
  • 呼びかけに応えない
  • 指差しではなく、親の手を動かすことで意思を伝える (いわゆる「クレーン現象」)
  • よく泣く (たとえば保育園のお遊戯会などで歌がやむと泣く)

一方で、知的な問題を抱えているようには思えません。たとえば子ども向けの辞典を開いて「X はどれ?」と聞くと、それを指差すことができます。このことから、言葉は発しないものの耳は聞こえていることがわかります。

これらを総合して「我が子には自閉傾向があるのかもしれない」と思い、この本を読みました。

期待に応える本であったのか?

医療に関わる本は批判的に読むことが重要だと考えています。医学は再現性の低い事象を扱う学問だし、根拠のないカルトのような情報も多いからです。

本書の第一章には次のような節があります。

情報は藁にもすがって見るのではなく、批判的、客観的に見ることが大切です。

薬が効いたという話だけが強調され、「効かなかったという話はない」場合は要注意です。どんな薬でも効く場合もあれば効かない場合もあり、副作用のために中断せざるを得ないこともあります。どんな治療でも「100パーセント」有効ということはまずありません。 ですから効いたということだけを宣伝している情報は、とくに体の負担になるような処置や検査をする場合には、保険外診療、保険診療にかかわらず要注意です。

著者のスタンスはわたしには望ましく思えるものです。この本ではエビデンスレベルの高い情報と著者の意見は分けて書かれています (「エビデンスレベルとはそもそも何か」という記述も本書に含まれています)。

あえて不満をあげれば、巻末リファレンスが書籍のみであるところが気になりました。エビデンスレベルの高いものについては、論文そのものも載せておいてもらえればと思いましたが、一般書にそのようなニーズはほとんどないのかもしれません。

参考になった内容

「ほめる」や「目を合わせる」などベーシックなところをのぞいて、次のようなところが参考になりました。

親が主導権を持ちながらも、子どもに「自己決定」させる

たとえば、食事のときに「準備ができたからご飯を食べなさい」ではなく、「おなかが空いていたらご飯を食べる?」「うん」「じゃあ食べよう」のように会話を進めます。

別な例では、遊び食べに対して「さっさと食べないと片付けるよ」ではなく、「もっと食べる人?」に「はい」と返事をさせたうえで「食べようね」とする方がうまくいくともありました。

指差しの練習

前述の通り、息子は指差しができません。しかし「指差し」も練習できるとのこと。子どもの手を取って人差し指を開き、指差しを補助する方法などがあるそうです。

補充代替療法 (CAM)

このような記述があります。

ASD においても実にさまざまな CAM (Complementary and Alternative Medicine: 補充代替療法) が提唱されています。共通する問題点は、成功例は紹介するが失敗例の報告はないことと、明らかなエビデンスを持った論文がないことです。

また医療であれば何を目標に行うか、という前提がありますが、CAM の場合にはそれも漠然としています。なかなか改善しない状況に藁をもつかみたい保護者の気持ちがわからないわけではありませんが、いわば障害ビジネスではないかと考えられるものも残念ながらあります。

これに続いて、「サプリメント、ビタミン」「除去食」「キレート療法 (キレート剤を水銀などの金属と結合させて体外に排出しようとする治療法)」のすべてについて、根拠が乏しいと結論づけています。「有効性が確立している…はありません」などのように書かれており、真摯な印象を受けました。

小学校における「通常学級」と「特別支援学級」

そもそも ASD であることを学校に告げるかどうか、そのメリット・デメリットについての記述があります。学校に話すことで、なかば脅迫のように「問題があるから相談に来たのですよね?」などと言われるケースがあることも紹介されています。

また、特別支援学級からはじめても「伸びたら通常学級に替わることができますよ」と教育委員会で言われることがあるそうです。これについては「過去5年間で実際に何人が替わったか?」と聞いてみることが勧められています。特別支援学級から通常学級に替わるのは実際にはかなりハードルが高いことのようです。

おわりに

息子の発育は遅れているけれど「いつかは人並みになるだろう」と楽観的に考えていました。しかし、本書を手にとって「やるべきことはたくさんある」と認識を改めました。また「小学校入学などのイベントをひかえて、悩ましいことがたくさんある」とも思いました。

自閉症や発達障害については調べ始めたばかりなので、より多角的に情報を仕入れて知見を深めていきたいと思います。