「NO HARD WORK!」を読んだ。日本語版には「無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方」というサブタイトルがついている。Basecamp の Jason Fried と DHH が書いた本である。
僕は彼らの書く本が好きで、数年前まではよく読んでいた。しかし「NO HARD WORK!」は二年も前の本である。僕の「追っかけ」熱も冷めてしまったものだ…。
本書の感想を端的に言うと「いつもの Jason と DHH だな…」だ。率直なところ、これまでの Basecamp の本を読んでいれば、目新しい情報や主張は多くないと思う。
その中で少しだけ、かつての Basecamp と「主張が変わったなあ」と思うところを紹介しよう。Basecamp の昔の本である「小さなチーム、大きな仕事」には「けんかを売れ」と言う節があった。これは業界のトップブランドに対して「違いを打ち出して顧客を奪え」という主張であった。一方で、本書の「ハッピーな不戦主義者」では、「競合を意識してもしょうがない」というようなことを言っている。Basecamp も変わったものだ。僕は本書の主張の方が好みだ。
他に面白かったのは「Basecamp では、ユーザー数で課金しない」という話だ。「失う勇気」という章で書かれている。「ユーザー数で課金すると、大企業がクライアントになったときに大金を手にしてしまう。そのため、その企業の意向を無視できなくなってしまう」とのことである。この考え方はすごい。売上を (ある程度) あきらめることで、自由を手にしているわけだ。こういうポリシーで会社を運営できるのは強い。
「NO HARD WORK!」は楽しく読めたものの、やはり昔ほど Basecamp の本に入れ込めなくなってしまったように思う。ソフトウェア技術者として経験を積む中で、ある程度の諦観を持ったからかもしれない。ここで紹介されている素晴らしいノウハウを自社に持ち込むためには、他のメンバーにも同じ理解をしてもらう必要がある。これは容易ではない。たとえば「リアルタイムチャットは害悪である」という主張が本書にある。僕だけがこの主張に同意してもうまくいかない。他のメンバーにも同じように理解してもらえない限り「返事の遅い嫌なやつ」になってしまうだろう。しかし、Basecamp の主張は癖が強いので、僕の友だちの中にも「受け入れられない」と言う人もいる。なかなか実世界に Basecamp の考えをインストールするのは難しい。
現実的には、本書のエッセンスを汲んだ上で、役立つところだけを少しずつ組織に導入していくしかないのだろう (もしくは転職する)。